江見絹子展 レトロスペクティブ トップページへ
《時の橋》
1986 カンヴァス、油彩
江見絹子(1923‐)は、兵庫県明石市に生まれ、第4回行動展(1949)に初入選、翌年の第5回展で奨励賞を受賞したのを機に上京し、横浜市山手に居を定めました。第7回展(1952)で行動美術協会の最高賞である行動美術賞を受賞して、1953年に会員となり、同協会の新進気鋭の女流画家として頭角を現します。1953年末から2年間、アメリカとフランスに滞在し、西洋絵画の伝統に触れ、また特にアルタミラとラスコーで先史時代の洞窟壁画を見たことによって、自分にとっての芸術の本質を「抽象」に見出すようになります。
帰国後は、それまでの裸婦像を中心とする具象画にかわって、さまざまな様式の抽象画を展開します。第1回、第2回のシェル美術賞の連続受賞(1956、1958)に始まり、第12回女流画家協会展(1958)の毎日新聞社賞、第5回現代日本美術展(1962)の神奈川県立近代美術館賞などの受賞歴は、江見絹子の抽象画に対する高い評価を物語るものです。また、第41回ピッツバーグ国際現代絵画彫刻展(1958)、第3回グッゲンハイム国際美術賞展(1960)、第31回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(1962)など、国際美術展へも出品し旺盛な創造力を示します。
また江見絹子は美術の普及にも努め、1961年には会派を横断する神奈川県女流美術家協会を創立し、現在もその代表として後進の指導と地域芸術の発展に貢献しています。
1975年以降の江見絹子は、火、水、風、土の四大元素をモチーフに、それらを統合した宇宙的な空間を描こうとしています。美術館における最初の大規模な個展となる本展では、行動展への出品作品を中心に、鮮やかな色彩による抽象画を今日も描き続ける江見絹子の半世紀にわたる創造の全貌を、約60点の油彩画などによって明らかにします。
 年代と作品
 
1 1923年から1955年
2 1955年から1967年
3 1975年から1986年
4 1987年以降
《三裸》
1950 カンヴァス、油彩
1 1923年から1955年
高等女学校を卒業後、本格的に絵を描き始めた江見絹子は、1950年の第5回行動展で奨励賞を受賞したのを機に上京し、横浜市山手に居を定めます。その頃の絵は、明るい裸婦像でしたが、その後、色彩を抑えた裸体群像を描くようになります。1952年に行動美術賞を受賞した《むれ(1)》は、そのような作品のひとつですが、今回の展覧会のために修復されました。
修復中の《むれ(2)》
1952 カンヴァス、油彩
2 1955年から1967年
 帰国後の江見絹子は、矩形や線によって厳しい構成をとる幾何学的抽象画、構成要素をミニマムにした抽象画、丹念に作られた下地に黒と黄色の絵具で彩色した抽象画、大きな筆で勢いよく描かれたいわゆる「熱い抽象」画と、さまざまな様式の抽象画を展開します。それらの作品には、アンフォルメルや抽象表現主義の模倣ではなく、常に独自の表現を求め続けた画家の軌跡が読み取れます。日本人女流画家として初めてヴェネチア・ビエンナーレに出品した全8点も40年ぶりに展示されます。
《雲を運ぶジュピター》
1964 カンヴァス、油彩
《作品4》
1962 カンヴァス、油彩
ビエンナーレ出品作品
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《空の輪臺》
1978 カンヴァス、油彩
《幻想と秩序》
1986 カンヴァス、油彩
3 1975年から1986年
「水、火、土、風の四大元素が私の主要なモチーフを形成してきた。今後もそれらを統合したところにあらわれるであろう宇宙的な空間を目指してゆくことになるだろう。」と語る江見絹子はこの時期、テレビン油で極薄く溶いた絵具、あるいはテレビン油そのものを傾けたカンヴァスに流し絵具を「溶かす」という技法を画面全体に応用し、画家自身の手の操作に、物質の混合や重力という自然の作用を予測不可能な要素として加え、独自の宇宙観を描き出します。
4 1987年以降
 1987年以降の作品には、円や矩形を基本とした形のほかに、有機的で複雑な形が現れ、《古い谷と新しい風》(1996)や《水を建てる》(1997)に至っては具象性さえ帯びるようになります。さらに、画面全体に応用されていた「溶かす」技法は次第に部分的な効果に限られるようになり、それに代わって画家の手の軌跡である筆跡が意識的に残されます。江見絹子はますます鮮やかな色彩とますます自由な形態による画面を、再び自らの手で創り上げているのです。
《天井の森》
2003 カンヴァス、油彩
《水を建てる》
1997 カンヴァス、油彩


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