日本では今日、旧東欧のアニメーションがブームとなっています。ヨーロッパの中央に位置するチェコ共和国の現代の映像作家を代表するヤン・シュヴァンクマイエル(1934-)は、その一翼を担い、また近年では短編映画のほか、アニメーションの要素を採り入れた『アリス』(1987)や『ファウスト』(1994)などの長編映画でも国際的に高い評価を得ています。
しかし、シュヴァンクマイエルの創作は、映像に限られたものではありません。ルドルフ2世の治世に画家アルチンボルド(1527頃-93)が幻想的な絵を描いて活躍した魔術的な古都プラハでは、ふたつの大戦間の共和国時代にはカレル・タイゲ(1900-51)などを中心にチェコ・アヴァンギャルド芸術が隆盛を見せました。その伝統を戦後に引き継いで、1950年代後半のスターリン主義の時代、1970、80年代の「正常化」の時代という政治的抑圧の下、1970年代の一時期には映像の制作から離れることを余儀なくされながらも、ヤン・シュヴァンクマイエルは、妻のエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー(1940-)と共に、シュルレアリストとしての活動を実践、維持してきたのです。
本展覧会では絵画やオブジェなどの造形作品約170点に、映像、シュルレアリスムの実験や写真などの資料を交えながら、シュヴァンクマイエル夫妻の「造形」と「映像」の世界を紹介します。映画『ファウスト』で使われた操り人形、映画『悦楽共犯者』(1996)の自慰機械、映画『オテサーネク』(2000)の木偶人形、現在製作中の新作映画『ルナシー(狂気)』(仮題、2006年公開予定)で使われているオブジェなどが展示されるほか、制作風景などの写真も公開されます。また、併設の講堂では本展覧会に合わせて「シュヴァンクマイエル映画祭
in HAYAMA」を開催し、シュヴァンクマイエルの魔術的な造形と映像の世界をすべてお見せします。