美術館について

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旧鎌倉館

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神奈川県立近代美術館は、日本で最初の公立近代美術館として、1951年に開館して以来、つねに美術館はどうあるべきかを考えながら国内での先導的な役割を担って活動してきました。時代と世界に向けて広い視野をもつこと、変化する社会の要請を見極めること、美術館が拠って立つ地域との結びつきを豊かにすること、歴史の中に今日的な課題を見出すこと、そして美術館の独自性と主体性を失わないこと。そうした事柄をいつも念頭において経験を積み、これからの活動を探っています。
2016年度からは、葉山館、鎌倉別館と略称している二つの建物でそれぞれ一年に数回の展覧会を開催しています。展覧会とならんでさまざまな教育普及活動のプログラムを組み、美術館を多様なかたちで楽しめるよう心がけています。美術館が誰にでも親しめ、快適な場所であり続けられるように、そのうえ、何かが発見できるところであるように、それが神奈川県立近代美術館の目指すところです。

館長からのメッセージ

川と商人と三人の王子の物語 セレンディピティについて

2021年4月  神奈川県立近代美術館長  水沢 勉

セレンディピティという言葉があります。スリランカの古名セレンディップに接尾辞をつけて抽象名詞化したもの。地名由来のために翻訳できません。あえて直訳すれば「セレンディップ的なこと」でしょうか。
    本庶佑氏が2018年にノーベル生理・医学賞を受賞されたときの記念講演のタイトルは「セレンディピティとしての獲得免疫 (Serendipities of acquired immunity)」でした。いま新型コロナウイルス蔓延の危機のさなか 3 年ぶりにその動画を視聴しました。
    免疫というものが人類史上いかに奇跡的な出来事であったかを改めて知りました。疫病に罹患し、回復したとき免疫が獲得されている――その仕組みを科学者たちは粘り強く探求してきたのです。
    そのとき、なぜセレンディップなのか、という疑問が浮かび、その理由を知りたくなりました。調べると「セレンディップの三人の王子様」という古い物語が存在することがわかりました。イスラム圏に流布しヨーロッパにも伝播した物語は、異聞も含めてさまざまなヴァージョンが存在します。そのなかでも洪水で川辺の邸宅ごと全財産を失った商人の物語はとりわけ心に残ります。
    商人はその川辺に偶々やってきた王子たちに涙ながらに惨事を語ります。すると王子たちは「悲運は幸運となる」と言い残して立ち去ります。時が過ぎ再び王子たちが川辺に戻ってみると、崖上に商人の邸宅は再建されています。商人に招待を受けた王子たちは、その間の顛末を聞かされます。商人は幼年時代、その川で水遊びに夢中になっていました。悲運に見舞われた商人に川はこう語ります。「うえをみてごらん」と。商人は残されたわずかの所持金で高台を整地し家を建てることにします。すると地中から貴石の鉱脈を発見するのです。
    一度は病気になることで獲得される免疫。悲運に打ちひしがれず前を向き、上を見あげた結果の僥倖。芸術との稀なる出会いの素晴らしさに重ねながらいま味わいたい物語です。

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