ホーム   >   コレクション   >   さまざまな個人コレクション

さまざまな個人コレクション

神奈川県立近代美術館の所蔵作品には、いくつかの個人旧蔵コレクション群が含まれます。一人のコレクターやアーティストが独自の視点で蒐集した作品群や、ある作家に関するまとまった作品・資料群など、そのあり方もさまざまです。美術館とゆかりの深い個人コレクションをいくつか取り上げてご紹介します。

松本竣介と『雜記帳』

松本竣介は、1912年に東京で生まれ、少年時代を岩手県花巻、盛岡で過ごしたのち、ふたたび東京に出て画家となりました。1935年頃から没年の1948年まで画家として松本竣介は、家族や自身をテーマにした人間像のほかに、とりわけ詩情豊かに都会風景を描いたことで知られます。洗練された感覚に支えられた彼の絵画は、時代の彩りを映しながらも、いつも透明感をたたえています。靉光や麻生三郎らとともに、自分たちの世代の新しい絵画を模索した松本竣介は、現代にあっても忘れることのできない大切な画家です。
神奈川県立近代美術館は、1958年に「松本竣介・島崎鶏二」展を開催しました。松本竣介が没してから10年後に開かれたこの展覧会は、36歳の若さで死んだこの画家の仕事を世に紹介し、歴史の中に位置づける機会として重要なものになりました。
展覧会を機に当美術館では、松本竣介についての調査研究、資料収集を進めてきました。『雜記帳』は、松本竣介、サダコ夫妻が編集に携わった月刊誌で、1936年10月号から1937年12月号まで刊行されました。靉光、鶴岡政男ほか約50名の画家がこの雑誌のために原画を寄せました。そうした同時代の画家たちとの交友をうかがわせる『雜記帳』挿絵の原画と竣介自身のデッサンとをあわせて85点と油彩画3点を1967年にマツモトサダコ氏から寄贈を受け、また竣介と同郷で交友のあった畑山昇麓氏からも彼の油彩画10点を寄贈していただき、松本竣介を知るうえでまたとない貴重なコレクションを形成しています。

  • 松本竣介《立てる像》1942年

    松本竣介《立てる像》
    1942年

  • 『雜記帳』創刊号(復刻版)

    『雜記帳』創刊号(復刻版)

  • 靉光《作品》1936年頃

    靉光《作品》
    1936年頃 マツモトサダコ シ キゾウ

  • 松本竣介《橋(東京駅裏)》1941年 畑山昇麓氏寄贈

    松本竣介《橋(東京駅裏)》
    1941年 畑山昇麓氏寄贈

内山嘉吉と中国木刻

1930年代から40年代に中国で制作された木刻画と称される木版画があります。1930年代に魯迅が主導した抗日運動と連動して展開した木刻運動は、当時、中国で書店を経営していた兄完造を訪ねた内山嘉吉氏が上海で版画講習会を開いたことにより、青年たちのあいだで一気に広がっていきました。内山氏はコレクターというよりも、当時の運動の当事者のひとりとして日中戦争の激動の時代を彼らとともに過ごし、素朴で力強い版画の数々を日本に持ち帰りました。1975年に当館で開催した「中国木版画展」は、前年に内山氏から寄贈された1930年代から40年代までの木刻画作品を中心に構成されたものでした。1980年の2度目の寄贈によって1955年から1970年代にいたる作品も加わり、合計600点におよぶ中国版画のコレクションは、中国にもほとんど類を見ることのない、世界的に貴重なコレクションとなっています。

  • 汪刃鋒《とむらい》制作年不詳

    汪刃鋒《とむらい》
    制作年不詳

  • 陳葆真《光は目の前に》 1932年頃

    陳葆真《光は目の前に》
    1932年頃

  • 克萍《魯迅先生》 1947年

    克萍《魯迅先生》
    1947年

山口蓬春文庫と下図・素描

山口蓬春は、戦前から戦後にかけて現代のやまと絵を創生し大きな功績を残した日本画家です。現在、葉山館の近くに、かつて蓬春が過ごした自宅兼アトリエが、山口蓬春記念館として公開されています。神奈川県立近代美術館は、蓬春の没後、1985年と86年の2度にわたって春子夫人から画家が旧蔵していた約4300点の図書資料と約300点の下図、素描を寄贈していただきました。資料のなかには古典や伝統を研究したことをうかがわせる和書、模写も含まれるほか、アンリ・マティスの版画集『ジャズ』やアンドレ・マッソンの版画集『フェミネール』、美術雑誌『Verve』などがあり、フランス近代絵画への関心を示すとともにきわめて質の高いコレクションとなっています。

その他の個人コレクション

当館の所蔵作品を特徴づけるものとして、いくつかの個人コレクションがあります。
版画のコレクションについては、レーダーの発明により得た財を投じてシャガール、ルオー、ルドン、ピカソなど世界的な巨匠の版画作品や浜口陽三などの日本の版画を蒐集し、その約400点のコレクションをご寄贈くださったモチヅキトミアキ氏の望月コレクション、同時代の版画作品を蒐集した眞下美佐男コレクション、柄澤齊など現在活躍する版画家の作品をまとめた美浦康重版画コレクションなどがあります。

日本画のコレクションとしては、横浜の豪商原三溪の番頭であった村田徳二氏が伊東深水、小林古径、下村観山、安田靱彦ら交友のあった画家から譲られた下絵と書簡からなる村田コレクションが徳二氏のご子息から寄贈されました。さらに俵屋宗達や鎌倉時代の曼荼羅など古美術のコレクターでもあった日本画家の木下翔逅氏が収集したコレクションが加わっています。1920年代ベルリンに赴き、ドイツ表現主義の作品を日本に持ち帰って紹介した宗像久敬氏のシャガール、クレー、カンディンスキーらの自筆サインとデッサンが記された「宗像サイン帳」をはじめとする宗像コレクション、近年では西洋と日本の近代洋画を中心とする北川原夫妻によるコレクション、そして鯰絵と19世紀西洋版画の充実した気谷誠コレクションなど、多彩な個人コレクションは、当館の所蔵作品をいっそう充実したものにしています。

  • 柄澤齊《クロノスの盃》1979年美浦康重氏寄贈

    柄澤齊《クロノスの盃》
    1979年
    美浦康重氏寄贈

  • 下村観山《信濃の山路(下図)》1907年頃村田邦夫氏寄贈

    下村観山
    《信濃の山路(下図)》
    1907年頃
    村田邦夫氏寄贈

  • 俵屋宗達《狗子図》江戸時代木下和香子氏寄贈

    俵屋宗達
    《狗子図》
    江戸時代
    木下和香子氏寄贈

  • 《鯰を押さえる恵比寿神》安政2(1855)年気谷陽子氏寄贈

    《鯰を押さえる恵比寿神》
    安政2(1855)年
    気谷陽子氏寄贈

ページトップへ