お知らせ

葉山館は、2025年3月31日(予定)まで改修工事に伴い展示室での展覧会を休止しています。詳細はこちらをご覧ください

展覧会

[6月9日より開催]日々を象(かたど)る  Giving Forms to Daily Life 神奈川県近代美術館 鎌倉別館 The Museum of Modern Art, Kamakura Annex

[6月9日より開催]日々を象(かたど)る

本展は中止を告知しておりましたが、緊急事態宣言解除に伴う臨時休館の短縮により、6月9日より開催いたします。
ご来館にあたりご案内・お願いをご確認ください。

企画概要

何気ない日常の光景を描く作品と、何気ない表現にこめられた思い。描き、作ることで日々をかさねる作家たちと、積みかさねられた作品が発する力。絵画や素描、立体の作品を中心に、当館のコレクションから制作と(非)日常をめぐる幾つかの視点を立てて作品を選りすぐりました。見知った世界から引き出された、感性に響くイメージとの出逢いを展示室で体験してください。

 

展覧会の見どころ

1. 自然の息吹を感じ取る

私たちの生きる世界を満たす大気や風、大地と緑。つねに時間の中で生まれ、変化していく自然のすがたを、美術家たちはどのように色や形でとらえてきたでしょうか。「景色」の向こうに豊かな気配が広がる作品をお楽しみいただきます。

2. 日常と表現のつながりを考える

絵画や彫刻はしばしば静止した「立像」や「座像」として人体を表してきました。では、日常の動きである「歩く」姿、それが一時停止した「たたずむ」姿が作品になるときは? 静けさとリズム感、写実性と非現実感をあわせもつ作品から、美術の魅力を考えます。

3. 佐野繁次郎のドローイングを特集

戦前のパリでマティスに師事した佐野繁次郎(1900-1987)。洒脱な絵画とならんで高い人気を誇るのが、挿画や装幀に用いられたドローイング(線描画)の仕事です。フランスと日本の日常風景をとらえたエスプリに溢れる佐野のドローイングを多数紹介します。

開催概要

会場
鎌倉別館
会期
2020年4月11日(土曜)から7月5日(日曜)まで
2020年6月9日(火曜)から7月5日(日曜)まで

※新型コロナウィルス感染症拡散防止策の臨時休館短縮に伴い、中止告知を改めて開催します
(4月11日(土曜)~6月8日(月曜)臨時休館)

政府や神奈川県の動向および新型コロナウイルス感染症の拡大状況などを踏まえ変更となる可能性があります。ご来館の際には美術館ウェブサイト、ツイッター等で最新情報をご確認ください。

休館日
月曜
開館時間
午前9時30分 – 午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料
一般250
20歳未満・学生150
65歳以上と高校生100円
中学生以下と障害者手帳等をお持ちの方(および介助者原則1名)は無料です。*ファミリー・コミュニケーションの日(毎月第1日曜日: 5月3日、6月7日、 7月5日)は、18歳未満のお子様連れのご家族は割引料金(65歳以上の方を除く) でご覧いただけます。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、同日の会話を楽しむ日「オープン・コミュニケーション・デー」は中止いたしますが、小さなお子様連れの方も遠慮なくご覧ください。
*その他の割引につきましてはお問い合わせください。
主催
神奈川県立近代美術館
県立美術館・博物館の割引
県立の美術館・博物館の有料観覧券の半券提示で、観覧料が割引になります(観覧日から6ヶ月以内。葉山館の半券提示でも割引になります)。一部の展示を除き、65歳以上券、高校生券の割引適用はありません。その他の割引は各施設にお問い合わせください。 詳しくは神奈川県のウェブサイト(別ウィンドウが開きます)をご覧ください。
•近代美術館 葉山
 電話:046-875-2800
•近代美術館 鎌倉別館
 電話:0467-22-5000
•金沢文庫
 電話:045-701-9069
•歴史博物館
 電話:045-201-0926
•生命の星・地球博物館
 電話:0465-21-1515

ごあいさつ

「日々を象(かたど)る」展を開催いたします。
「象」という漢字は、動物の「象」を表す象形文字です。古代中国の殷時代の甲骨文字のなかにその原型を見出せます。それは象が歩いているさまを横から象(かたど)り、それを90度回転させたものでした。また近年、研究の進展により4万年以上遡ると推定される洞窟壁画のなかにもまさに「象」を描いたイメージ群が発見されています。
「象」を「象る」。
それが人類にとっての表現行為の原点だったのです。でも、なぜ「かたどる」という意味を「象」という文字が帯びたのでしょうか。大きく力強い存在として遠い過去から人間を圧倒し、畏敬の対象であった象は、おのずと「すがた」を意味するようになったのかもしれません。児童画に好まれる動物園の人気者の象が洞窟壁画にも描かれていることは、両者が無縁でないことを暗示します。
芸術家は日々、比ゆ的に「象(ぞう)」を探している。それはまさにイメージとしての「象(ぞう)」でもある。世界を「形象」として表現することが美術にほかならないのです。
本展は、日々「象」を生み出してきた芸術家たちの創造活動を、当館のコレクションからご紹介しようとするものです。それらの作品は、困難な日常でこそ、わたしたちを励まし勇気づけてくれるはずです。
最後に貴重な作品をご寄贈・ご寄託いただいた方々、本展の開催にご協力をいただいた関係各位に御礼申し上げます。
 
2020年4月
神奈川県立近代美術館長 水沢勉


1. アトリエとその周辺

この世界で、だれもが一日ずつ体験している「日々」。
描き、作ることで日々をかさねる美術家たちが、日常の創作の場であるアトリエや、そこから足を延ばして見つけた風景を、本展のプロローグとしてご紹介します。
黒田清輝が半年ほど逗子に滞在して描いた田越川の河辺(1913年[大正13年]には鎌倉の材木座にアトリエを持ちました)や、1917(大正6)年から約7年を鵠沼で暮らし、多数の「麗子像」を描いた岸田劉生の風景画は、湘南の風と光を生き生きと感じさせます。
黒田のフランス留学(1884-1893年)から時代を下ること約30年、青山義雄や麻生三郎ら、1920年代から30年代に最初の渡欧を果たした画家たちにも、異国での創作は新鮮な日々であったことでしょう。同じく1920年代にパリに出たスイス出身の彫刻家・画家アルベルト・ジャコメッティは、1926年から終生を暮らしたイポリット・マンドロン街のアトリエで、モデルを使わないときにも室内や静物を繰り返し描きました。

セクション1の会場風景をみる

  • 黒田清輝《逗子五景》〔5点組の1点〕1898年頃
    油彩、板
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 青山義雄《アトリエ》1925年
    油彩、カンヴァス
    神奈川県立近代美術館蔵

  • アルベルト・ジャコメッティ《瓶のあるアトリエ》1957年
    リトグラフ、紙
    神奈川県立近代美術館蔵


2. フランスの日々、日本の日々:佐野繁次郎の線描画とともに

10代で佐伯祐三と知り合って絵を志し、戦前のフランスでマティスに師事した佐野繁次郎。洒脱な絵画とともに今も人気の高い、エスプリに満ちた挿画の仕事を特集します。簡潔ながら味わい深い線が小さな紙上に描き出す都会の魅力に呼応して、フランスと日本の日常風景をとらえた絵画を選りすぐりました。
1950年代のパリは、佐野をはじめ藤田嗣治や佐藤敬らの再訪組と、田淵安一や金山康喜ら初めて渡航した青年たちが、制作を謳歌し、交流した場所でした。具象から抽象へと潮流の移る時代を感じながら、それぞれが独自の表現を追求しています。
いっぽう、明治の落語家・三遊亭円朝を題材とする小島政二郎の小説に寄せたカット下絵など、幕末から明治を思わせる日本をとらえた佐野の素描は、モダンさとノスタルジーを併せ持ち、佐野が挿画・装幀の仕事を始めた1930年代に描かれた松本竣介の無国籍風な都会風景とも、福王寺法林や木下翔逅が自宅の日常を描いた清新な日本画とも重なります。

セクション2の会場風景をみる

  • 佐野繁次郎《ピエール・ダニノス『見るもの食うもの愛するもの』の装丁下絵》1958年
    色鉛筆、鉛筆、紙
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 松本竣介《街にて》1938年
    ペン・墨・鉛筆、紙
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 木下翔逅《裔子》1963年
    紙本着彩
    神奈川県立近代美術館蔵


3. 日々をつつむ自然 — みえないものを描きだす力

私たちの生きる世界を満たす大気や水、あるいは湿度や温度といった、つねに時間の中で生まれ、変化し、消えていく自然のすがた。画材・素材の質感や色彩を組み合わせて、一枚/一体の形象(イメージ)に移し替える美術家の技術と感性が、「形にならないもの」を臨場感をもって体験させてくれます。
時間のなかで風化し、漂白した樹や石に厳粛さと神秘を見て取り、これを「肯定して行くよりほかない」(*1)という荘司福。「日常に緑の自然物があまりにも多く存在する」(*2)からこそ現代美術において緑は難しいと捉え、細心の色彩選択でこれに取り組んだ松本陽子。西村盛雄が蓮に象ったのは、その「葉」だけでなく、「器」のような実体の空隙に存在する虚の空間でもあります。「風とともに」を意味して題された李禹煥の画面もまた、反復的に重なり合う色彩が揺らぎを表すと同時に、余白を主題化した作品です。小西真奈が描く空間では、点景の人物を通して、視線の彼方にどんな気配を感じられるでしょうか。
 
*1:『生誕100年 荘司福展』(神奈川県立近代美術館 葉山)図録、2009年
*2:『今日の作家X:西村盛雄・松本陽子』展(神奈川県立近代美術館 鎌倉)図録、2005年

セクション3の会場風景をみる

  • 荘司福《石》1980年
    紙本着彩
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 松本陽子《私的光景》2005年
    油彩、カンヴァス
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 李禹煥《With Winds》1990年
    顔料、カンヴァス
    神奈川県立近代美術館蔵


4. 歩く日々、佇む日々

ダンスや映画と異なり、静止した作品をつくり出す絵画や彫刻は、「立像」や「座像」という言葉にみられるように、しばしば不動のポーズを取った像(イメージ)として人体を再現してきました。では、日常の基本的な動きといえる「歩く」姿、それが一時停止した状態としての「佇(たたず)む」姿には、何が現れるでしょうか。
片岡球子が初代歌川広重(安藤は本姓)の肖像と並べ画中画として描いた《大はしあたけの夕立》は、ゴッホの模写でも知られる広重『名所江戸百景』の傑作。広重や片岡と同様に、写実をずらし、独自のデフォルメされた群像で現代の往来を描く相笠昌義は、日常に生じる静と動を絶妙にとらえています。
小林清親の錦絵に描かれた中国・山東半島の軍港地は、日清戦争を美的に伝える想像の報道画でした。いっぽう、東京美術学校卒業の年に入隊し、中国・山西省ほかで終戦まで従軍した浜田知明が1950年代前半に手がけた「初年兵哀歌」は戦争諷刺で高く評価されたシリーズですが、その半世紀後にようやく描きえた、日本兵に蹂躙される現地民の恐怖を伝える1枚と並べるとき、ふたつの行進は加害者と被害者の両義性をもって立ち現れます。
瞬間と永遠のあいだで宙吊りにされたイメージは、静けさとリズム感、写実性と非現実感を併せもつ不思議な魅力を放ちます。その秘密は、相笠や阿部合成が行う背景の省略や、瓜南(かなん)直子やシルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田の作品にみられる部分の抽出にあるのではないでしょうか。捨象(しゃしょう)=かたち(象)を捨てることも、大事な表現なのです。

セクション4の会場風景をみる

  • 片岡球子《面構 安藤広重》1973年
    紙本着彩
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 相笠昌義《日常生活:交差点にて・待つ人》
    1999年 油彩、カンヴァス
    神奈川県立近代美術館蔵

  • 小林清親《威海衛上陸進軍之図》
    1895年 多色木版、紙
    神奈川県立近代美術館蔵


5. 虚(きょ)を型取る:岡崎和郎のオブジェ

日用品や青果など、日々の生活に存在する「物」の外形、あるいはその「内部」を石膏で型抜きし、反転した「虚」の空間を眼の前に塊として差し出してみせる岡崎和郎(かずお)のオブジェ。
豪徳寺(東京都世田谷区)の授与品である素焼きの「招福猫児(まねぎねこ)」の内側に石膏を流し込み、乾燥後に焼き物を破砕して取り出された「かたち」は、いわばゼリー型とゼリーの関係。《静物》の台座に乗った瓶(の内側)や卵(の内側)は、台座に反レリーフ状に彫られたアスパラガス(の内側)と同じくらい、「存在しないもの」としてそこにあります。では、《BELT》や《りんご》としてそこにあるのは、革製品や果物の実物でしょうか、それとも「胴体」や「果肉」の虚物でしょうか?
作家が「補遺」(サプリメント)と呼ぶ作品たちは、ビタミン剤などのサプリメントのように、私たちに不足しがちな「世界を違う見方でとらえる」能力を補ってくれます。

セクション5の会場風景をみる

  • 岡崎和郎《招福猫児》2006年
    石膏に彩色
    神奈川県立近代美術館蔵 撮影:山本糾


6. 制作する日々:新収蔵の渡辺豊重作品・資料を機に

2019年、鎌倉別館では改修に際して庭園を再整備し、野外彫刻の一部を移設しました。このときご協力いただいた美術作家の渡辺豊重氏より、別館の野外彫刻《SWING 86-01》制作当時のマケット(maquette: フランス語で模型、試作の意味)とスケッチ、図面等の寄贈を受けたことから、その一部を紹介し、あわせて鎌倉別館の野外彫刻に関連する三人の作家の小品を展示します。
《SWING 86-01》は1986年に日本丸メモリアルパーク(横浜市)で開催された「みなとみらい21彫刻展 ヨコハマビエンナーレ’86」に《スウィング 861》として発表されました。1960年代から絵画を中心に活動してきた渡辺は、人間本来の姿を抽象的なフォルムから引き出すことが本作の主題と語っています。「デッサンを通してずい分考えてきたんだけど、結局線というものを使うと、うまくいくなというのが分かってきて」「フォルムがはっきりすれば、キャンバスから切り抜くと、立体になる」「白く塗ってしまうと、物質感が消えて人間が生きてるような感じになる」(*1)という作家の、手を動かし探求をかさねる日常がうかがえる貴重な作品資料です。
彫刻のマケットは、それ自体が小品としての魅力をもち、実作との対比も楽しめる作品です。展示室と行き来して、ぜひ庭園の作品を風と光のなかで体感してください。
 
*1 『みなとみらい21彫刻展』(1986年)図録の作家インタビューより

セクション6の会場風景をみる

  • 〔参考〕渡辺豊重《SWING 86-01》
    1986年 鉄、塗料
    鎌倉別館 庭園常設

  • 〔参考〕井上玲子《カゲボウシ》
    1988年 アルミニウム
    鎌倉別館 庭園常設作品

  • 〔参考〕本郷新《わだつみのこえ》
    1950年 ブロンズ
    鎌倉別館 庭園常設作品

会場風景 (クリックすると拡大表示されます)

  • 会場風景1(セクション1~3)

  • 会場風景2(セクション1~3)

  • 会場風景3(セクション2)

  • 会場風景4(セクション2)

  • 会場風景5(セクション2. 佐野繁次郎 ケース)

  • 会場風景6(セクション2. 佐野繁次郎 ケース)

  • 会場風景7(セクション2)

  • 会場風景8(セクション2~3)

  • 会場風景9(セクション2)

  • 会場風景10(セクション2. 佐野繁次郎 ケース)

  • 会場風景11

  • 会場風景12(セクション3)

  • 会場風景13(セクション3)

  • 会場風景14(セクション3)

  • 会場風景15(セクション3~4)

  • 会場風景16(セクション4)

  • 会場風景17(セクション4)

  • 会場風景18(セクション4)

  • 会場風景19(セクション4)

  • 会場風景20(セクション4)

  • 会場風景21(セクション5)

  • 会場風景22(セクション5)

  • 会場風景23(セクション6)

  • 会場風景24(セクション6)