建築
葉山館の建築について
葉山館は、神奈川県立近代美術館の3番目の建物として2003年3月に竣工、10月に開館しました。天井高や照明環境に変化をつけた展示室のほか、資料の収集と情報の発信拠点を目指す美術図書室、視聴覚設備のある講堂、保存技術の粋を集めた収蔵庫など、多様な施設を備えた美術館となっています。
生活の中で美術館に親しんでいただけるよう、レストラン、ミュージアムショップ、庭園、美術図書室などは、観覧料なしでご利用いただけます。
建築
葉山館は、日本で最初の公立近代美術館である「鎌倉近美」の活動実績を継承し、美術館に求められる新たな社会的役割に十分対応するため、もうひとつの拠点として構想されました。設計者は、プロポーザル指名によって選ばれた株式会社 佐藤総合計画です。平成9年度より設計を開始し、平成12年度にはPFI方式を導入して新築工事に着手しました。
設計にあたり、美術館を使う立場から学芸員が「ビルディングプログラム」を作成し、これを設計に反映させるため、調査設計の段階から美術館と設計者が意見交換と検討を積み重ね、平成11年度に実施設計をとりまとめました。工事段階においても、美術館、 設計者、施工者、事業者が協力して光環境実験を行うなど、設計機能の向上を図りました。
主な建築的特徴
葉山の自然との調和
目の前の一色海岸と背後の三ヶ岡山を意識し、「海」と「山」にきらめく「光」に象徴される明るく開放的な空間と静穏な住環境とが調和するよう次の点に配慮しました。
- 容積率を法定の半分程度に抑え、緑被地率を約45%確保し、庭園を散策できるようにする。
- 建物の高さを10m以下に抑え、白い花崗石でつくられた単純なフォルムと、水平線を強調したファサードにより、建物を緑の中に沈みこませる。
- 2つのL字型の建物で囲まれた「中庭」をボイドスペースとし、葉山の風景(山と海)との連携を図る。
コンパクトながら機能性に富む
美術館としての基本的な性能である「保存」と「光」の性能確保を重視しました。この2つのテーマは、密閉型の恒温恒湿収蔵庫と、自然光を採り入れた展示室(トップライト)という形で実現しました。
来館者の動線への配慮
アプローチからエントランスホール、そして4つの展示室を経て中庭に抜け、海をのぞむレストランと講堂へと続きます。これらの来館者が利用する施設は、おもに1階のフロアに配置し、高齢者や障害者にもやさしい施設としました。なお、葉山館は、ハートビル法にも適合した施設となっています。
海を望むレストラン
来館者にゆったりと鑑賞の余韻を味わってもらうために、海の見える最高の場所にレストランを設けています。
建築データ
- 敷地面積
- 14,971.84m2
- 延床面積
- 7,111.51m2
- 展示室
- 1,297m2
- 収蔵庫
- 998m2
- 講堂
- 146m2
- 美術図書室
- 170m2
- 構造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)
- 階数
- 地上2階、地下2階
- 設計
- 株式会社 佐藤総合計画
- 施工
- 戸田建設株式会社
- 竣工
- 2003年3月
葉山館に関する参考文献
『建設技術者のためのPFI入門』 田中毅弘 (技術書院、2003年発行)
神奈川県立近代美術館新館等特定事業の概要・当該事業におけるPFI事業者選定の流れ(落札者基準)について書かれています。
『建築設計資料:102/美術館[3] - 多様化する芸術表現、変容する展示空間』建築思潮研究所編(建築資料研究所、2005年発行)
21世紀はじめに建てられた美術館建築として葉山館がとりあげられています。図面のほか、目的や立地条件などについても書かれています。